ひだまりラリアットLOVE

ひだまりラリアットを応援し続けるブログです。

朝焼けロックアップ ~あるアイドルグループの誕生物語~ 第2話

 翌日からは、店員の仕事と同時にアイドルデビューに向けての特訓も行うことになった。
 営業終了後にお店の小さなステージを使い、元アイドルの店長からレッスンを受けているのだが、店長の指導はとても厳しく、日中の店員の仕事との掛け持ちはかなりの負担を強いられた。
 その日、小林咲彩はレッスンを終えた駅までの帰り道で、一緒に歩いている佐々木のりこに疑問をぶつけた。
「店長ってさ、私達のどっちをデビューさせるつもりなのかな?」
「えっ?私、二人のユニットでデビューするものだとばっかり……」
「そうなの?私はどっちか一人だけがデビューするんだと思ってた。」
「うーん、そればっかりは店長に聞かないとわからないですね……」
 デビューするのが一人だけというのならば、残った一人が厳しいレッスンを受ける必要はない。
 そう思った咲彩は、翌日すぐに店長へ疑問をぶつけた。
「あの……私達、どっちか一人だけがアイドルデビューするんですよね?」
 店長はキョトンとした顔をした。
「えっ?あなたがたには、グループを組んでデビューしていただきますよ。」
「グ、グループって、私とのりちゃんの二人でですか?」
「いいえ。ユニットではありません。グループです。」
「グループ……」
 咲彩は予想していなかった答えに驚きを隠せずにいた。
「グループですか……。ということは私たち二人の他にも、メンバーが必要ってことですよね。」
「はい、グループなので三人以上は必要かと思っています。」
「三人以上?もしかして店長には他のメンバーの当てがあるんですか?」
「一人、当てがあるといえばあるのですが、ちょっと手強い方でして……」
「手強い?」
「この店の店員なんですが、そもそも滅多にお店に来ないんです。」
 咲彩は毎日のようにシフトに入っているため、おおよその店員のことは把握しているつもりだった。
 そのため店長が言う「滅多に姿を見せない店員」というのが誰のことなのか全く思い当たらなかった。
「私、ぜんぜん思い当たるふしがないんですけど……」
「はい、それはそうだと思います。彼女は厨房にいるキッチンスタッフなので。」
 言われてみれば咲彩はキッチンスタッフのことまでは把握していなかった。
 キッチンスタッフの中でもメインのスタッフのことはさすがに把握していたが、メインではない上に滅多に来ないとなると、覚えていなくても仕方がなかった。
「本当は接客を担当してほしかったんですけど、どうにも掴みどころが無くて……」
「掴みどころがない?」
「そうなんです。かなりマイペースな方なので、接客を任せる決断ができなくて……」
「それならどうして店長は、アイドルグループに相応しいと思うんですか?」
「あの子は飛び道具になると思うんです。世間にショックを与えられるような、クセのあるメンバーになれるかと。」
「……うーん。そういうもんなんですかね。」
 咲彩はその言葉の真意をしっかりと把握できなかったが、今は店長の言葉を信じることにした。

 咲彩はその日の帰り道、のりこに幻のキッチンスタッフについて聞いてみた。
「滅多に来ない……。それって、もしかしたら、あの人かも……」
「のりちゃん、知ってるの?」
「キッチンスタッフなんですけど、大きなヘッドホンをしながら調理している、ちょっとくせ者っぽい人が一人いるんですよ。」
「そうなの?そんな人いるの?」
「月に2、3回。それも2時間ぐらいしか来ないんで、ほとんど会ったことは無いんですけど……」
「そうなんだ……でも私、一度も会ったことないかも。」
「それってたぶん、先輩がステージを担当している日に来てるからですよ。」
「なるほどね。だからすれ違ってたのか。」
 咲彩はまだ見ぬメンバーのことを伝え聞けば聞くほど、不安な気持ちになっていった。

 その日、レッスンが始まる前、咲彩とのりこは店長からバックヤードの通路に呼び出された。
 その場で聞かされた店長の言葉は、二人にとって意外なものだった。
「申し訳ありません。私の代わりにナルさんとお話していただけませんか?」
「ナルさん?」
「メンバー候補の方の名前です。」
「あー、あの幻のキッチンスタッフさんですね。」
 のりこは顔と名前が一致したようだった。
「どうして店長の代わりに私達が説得するんですか?」
 咲彩が当然の疑問を口にした。
「それがですね。もしグループに入るならメンバーを見てから決めたいとおっしゃっているので……」
「なるほど~それはごもっともですね。」
 咲彩はすぐに納得した。
「先輩!それって私たちが「品定め」されるってことですよ。」
「うーん、でもさ、一緒にやっていくなら第一印象とか相性とか大事だと思うよ。」
「それはそうかもしれないですけど……もしダメだったらどうするんですか?」
「その時は縁が無かったってことで。」
「店長!それでいいんですか?」
「私も咲彩さんと同じ考えなので大丈夫です。それに……」
「それに?」
「きっとナルさんも、お二人のこと気に入ると思いますよ。」
 店長はそう言うと、ナルが待つ控室へ二人を連れて行った。

「ナルさん、入りますよ。」
「どーぞー。」
 控室の中から軽めの声が返ってきた。
「私は外で待っているので、ごゆっくりどうぞ。」
 店長は二人を中へ促した。二人は少し緊張しながらナルの待つ部屋の中に入っていった。
 そこにいたのはパーカーにハーフパンツ、短い金髪に首にかけたヘッドホンという、アメリカの西海岸あたりを感じる雰囲気の女の子だった。
「えっと……ナルさんですか?」
「南海ナルです!」
「はじめまして。私はフロア担当の小林咲彩です。」
「あー!ステージで歌ってるの見たことある!大人っぽくてかっこよかったよ!」
「あ、ありがとう。南海さん、いい人ですね!」
「いい人じゃないよ~、嘘がつけないだけだよ~。」
「それでも褒めてもらえて嬉しいです。」
「どーも。」
「そして、こちらにいるのが……」
「同じくフロア担当の佐々木のりこです。」
「あー、何回か見かけたことある!落ち着いた雰囲気で綺麗な人だな~って。」
「あ、ありがとう!」
 二人は褒められたことが嬉しかったのか、すっかり緊張が解けていたようだった。
「それでね南海さん。」
「ナルでいいよ~アタシまだハタチなんで。」
「私より8つも下……」
 年齢を聞いた28歳の小林咲彩がブルブルと震えだした。
「せ、先輩!しっかりしてください!」
「だ、大丈夫。若い子の不意打ちには慣れてるから。」
「あはは~先輩、おもしろーい!」
 ナルは咲彩が動揺する姿を見て爆笑していた。
 咲彩は取り繕うように、キリッとした表情をしてナルに聞いた。
「それでナルちゃん、アイドルグループに加入して欲しいって話なんだけど……」
「いいよ~!」
「へっ?」
 咲彩とのりこは二人同時に変な声を出した。
「いいよ~!入るよ~!」
「えぇ~!!」
「なんで?」
「だって二人ともアイドルっぽくないから。」
「アイドルっぽくない?」
「うん。でもその方が面白くなりそうじゃない?」
「そ、そうなの?」
 咲彩はナルの答えに戸惑っていた。そんな咲彩を見て、ナルは笑いながら言った。
「あはは。もっとアイドルアイドルしてる人だったら断ってたよ。」
 ナルは立ち上がって控室のドアの方へ歩いていった。
「これは楽しくなりそうだね~。」
 そう言うと、外で待つ店長のところへ向かっていった。
 咲彩とのりこはナルの掴みどころのなさを肌で感じて、戸惑ったまま無言で立ち尽くしていた。

朝焼けロックアップ ~あるアイドルグループの誕生物語~ 第1話

 秋葉原にあるコスプレ喫茶の店内に「ガシャーン!」という大きな音が響いた。
 グラスを粉々に割ってしまったのは、28歳の女性店員・小林咲彩(こばやし・さや)。
 オロオロしながら片付けをする彼女を見て、若い女性店長は「割れないグラスにしようかな」とつぶやいた。
「先輩!大丈夫ですか?」
 動揺が止まらない咲彩の元へ、後輩の佐々木のりこが駆け寄ってきた。
「あ、ありがとう。のりちゃん。いつも助けてもらってばっかりでごめんね。」
 咲彩が頭を下げた。
「ちょ、ちょっと先輩!やめてください!」
「だって、のりちゃんには、毎日毎日助けてもらってばっかりで……」
「いえ、私は先輩と一緒に働けて、毎日本当に楽しいんですよ。」
 その言葉を聞いた咲彩は顔を上げ、のりこに抱きついた。
「ありがとう。のりちゃん。すごく嬉しい!」
「私、先輩のそういう素直なところ、大好きです。」

 ここは秋葉原の外れにあるコスプレ喫茶「朝焼けロックアップ」。
 店員として働いているのは、咲彩とのりこの二人の社員と、アルバイトが数名だけ。
 週一回の定休日を除いて毎日働いているのは、この二人だけだった。

 ――そもそも小林咲彩は接客業に向いていない性格だった。内向的であがり症で対人恐怖症。
 彼女は巷でよくある人間関係のもつれから、短大を卒業して4年間勤めた会社を辞めていた。
 すぐに再就職のための活動を始めたのだが、内向的な性格ゆえ、面接すらままならない状態だった。
 ようやく雇ってもらえたのが、3年前から働いている、この「コスプレ喫茶」だったのだ。
 彼女が採用してもらえた理由。それは168センチという身長とスタイルの良さ。
 さらに、ちょうどオープニングスタッフを募集していたタイミングだったため、猫の手も借りたかったという店側の都合もあった。
 それでも彼女は拾ってもらえたことに恩を感じたのか、社員となり毎日のようにシフトに入り続けた。

 もう一人の社員が佐々木のりこ。2年前、初めてここに来た時はまだ大学生だった。
 都内の大学に通っていた彼女は、地元の船橋から学校への通過点である秋葉原でバイトを探していたところ、ビラ配りをしていた小林咲彩に声をかけられたのだった。
 その頃は背の高さを生かして男装をしていた小林咲彩に一目惚れしてしまったた彼女は、すぐに面接を受けることにした。
 結果は見事合格。小林咲彩に負けないスタイルの良さと、黒髪ロングの清潔感。そして気取らない自然体の雰囲気が採用の決め手だった。
 彼女はそのまま大学を卒業すると同時に、このコスプレ喫茶に就職し、社員となった。
 現在は小林咲彩と共にコスプレ喫茶のメインスタッフとして、日々お店に出ている。

 咲彩のメインのコスプレは「チャイナドレス」。働き始めの頃は男装をしていたが、ガチ恋勢のストーカーまがいの女性客が出始めたことから路線を変更した。
 のりこの方は、物憂げな「文学少女」。お店の片隅で難しそうな文学作品を読みふけっているという接客には不向きの設定だが、高校時代の制服をそのまま流用しているだけなので、そんなに苦労はしていないようだ。
 意外なことにお客さんの半分は女性で、主に咲彩の男装時代のファンがそのまま常連になってくれた形だった。
 これまでは咲彩が原因のささやかなトラブルはありながらも、楽しく平和な日々が続いていた。

 ――ところがそんな日常が音を立てて崩れるような出来事が起きた。
 絶望の言葉を告げたのは、若い女性店長・夏ヶ崎マノアだった。

 この日、仕事が終わった後の休憩室には、社員の咲彩とのりこだけが残っていた。
 帰り支度を終えた咲彩とのりこが、他愛もない話をしていると、ノックをして店長が入ってきた。
「お、おつかれさまです。」
 二人が立ち上がって挨拶をすると、店長は改まった様子で目の前に立った。
「二人とも、おつかれさまです。」
「……」
 沈黙が流れた。言いにくいことなのか、店長は少し言い淀んでからきっぱりと告げた。
「今日はここで、二人に言っておかなければならないことがあります。」
「は、はぁ……」
「えー、誠に言いづらいことなのですが……このコスプレ喫茶は倒産します。」
「は、はぁ!?」
「どういうことですか?」
 突然すぎる重大発表に、二人とも理解が追いつかないようだった。
「正確に言うとまだ倒産はしていません。ただ来月末までに借金を返さないと潰れます。」
「えっ!?来月末って、あと一ヶ月半じゃないですか!」
 珍しくのりこが大きな声を出した。
「それって……無理ですね。」
 咲彩は一瞬で諦めモードに変わっていた。
「そうですね。小林さんの言う通り今のままでは無理ですね。」
「……そういうことならわかりました。」
「ありがとうございました。」
 二人は同時に休憩室を出ようとした。
 慌てて店長が二人の腕を掴んだ。
「ちょっと物分り良すぎですよ!愛着とかないんですか!もっと抗ってくださいよ!」
「……でも、私たちにできることなんてありませんよ。」
 咲彩がそう言うと、待ってましたとばかりに、店長が胸を張った。
「実は私には“秘策”があります!」
「秘策~?」
「そうです。その秘策とは……」
「秘策とは?」
「二人にアイドルデビューをしてもらいます!」
「はぁ?」
「アイドルになって一発逆転してもらいます!」
「いやいやいやいや、無理でしょ!」
 二人は同時に否定した。
「大丈夫です。必ず売れるアイドルにしてみせます!」
 その根拠がどこから来るのかよくわからなかった二人だったが、次の言葉で不安が信頼に変わった。
「だって私は、元アイドルですから!」
 ――もしかしたらもしかするかも…と。

ひだまりラリアット エピソード0 ~はじめに~

2019年3月にシーズン4が終了した、日本テレビの2次元キャラクター育成番組「アイキャラ」。
そこから生まれた「ひだまりラリアット」という5人組女性アイドルグループ。

 

「ひだまりラリアット エピソード0」では、5人のメンバーが集まり、デビューに至るまでの“始まりの物語”を、数回に渡り綴っていきます。

 

彼女たちがどんなバックボーンを持ち、どんな想いでアイドルになったのか?
そして5人が抱く“叶えなければいけない夢”とは……?
このシリーズが終わる頃、ひだまりラリアットは華やかな旅路のスタート地点に立っているはずです。

 

少しの間ですが、お付き合いください。

新シリーズはじめます!

久しぶりの更新になります。

実は更新が止まっていたのには、ある理由がありまして……

今まで「ひだまりラリアット」のことを知っている人たちに向けて物語を書いていたのですが、それを前提にしてしまうと、初めて「ひだラリ」の存在を知った方々にとっては、彼女たちのことを全くわからないまま話が進んでいくという、ひどく不親切な状況になっていることに気づきました。

そこで、彼女たちのバックボーンがわかる物語が必要だと考え、その構想を練っていたところ、更新が遅くなってしまったのです。

ようやく目処が立ったので、新たなストーリを始めることができそうです。

今明かされる「ひだまりラリアット」の結成秘話。

きっと彼女たちのことをもっと好きになること間違いありません!

春色スタッカート ♭4

 新青森駅のコンコースには、すでに多くの生徒が集まっていた。
 私の中学校は2クラスしか無いので、全員でも60人ほどの少人数だ。新幹線ならほぼ1両で乗り切れてしまうらしい。
 ギリギリまで寝ていたかった私は、集合時間直前の電車に乗って新青森まで向かった。
 私は増野くんも同じ電車に乗っていたことに気付いていたけど、本を読むふりをして話かけないようにしていた。
 新青森に到着して、班ごとに並んでいる列に合流した時に、小さな声で「おはよう」とあいさつをした。
 増野くんは軽く頷いただけで、特に何も言わなかった。

 やがて出発時間となり、私たちを乗せた東北新幹線新青森から南へ向かって旅立った。
 新青森駅から最初の目的地の上野ま駅では、およそ3時間半ほど。中学生にとっては長い旅だ。
 私の隣の席には班長が座っていた。事前に班ごとに対面して座るルールが決められていたので、私の席の周りには班長を含めて3人の女子が座っていた。
 みんなのテンションが上がっていた最初の30分ぐらいは「楽しみだね~」といった話で盛り上がっていたのだけれど、すぐに話題も途切れ、車内はすっかり落ち着いてしまった。
 仲良し同士が集まったグループではなく、くじ引きで決まった班だとこうなってしまうらしい。
 私はバッグから本を取り出して読み始めた。みんなも雑談をしながらお菓子を食べたり、朝が早かったため寝たりしている。
 活字を追いかけながら、心地よい揺れを感じていると、だんだんと私も眠くなってきた。

 ――眩しい光が私を照らした。なぜか私は制服を着て、ステージの上に立っていた。
 客席には大勢のお客さんが座っている。その中に増野くんがいた。最前列で腕を組んで私を睨んでいる。
 スタンドマイクを前にしてオロオロする私に、増野くんは「本当に何もできないんだな」と言っているかのような、がっかりした表情を浮かべた――
 
 「まもなく大宮駅に到着する」という車内アナウンスで目が覚めた。
 私の周りに座っていた3人も、3時間以上の長旅で、いつの間にか眠ってしまったようだった。
 さっきの増野くんの表情を思い出して、夢だとわかりつつも寂しい気持ちになった。
 私はあのステージの上で何をすればよかったんだろう?
 その答えは、きっとお笑いライブの中にあるのかもしれない。そんな予感がした。

 上野駅に着いてから、バスに乗り国会議事堂に向かった。東京に来て最初に行く場所が国会議事堂というのがいかにも修学旅行っぽい。
 国会議事堂を見たところで「テレビのニュースに出ているところだな~」ぐらいの思いしか沸かなかった。
 それよりも、私は上野駅の人の多さの方が驚いた。
 上野駅の「公園口」という出口からバス乗り場へ向かったのだけれど、あんなにたくさんの人……それも外国人を見たのは初めてだった。
 どうしてみんなぶつからずに歩けるんだろう?私はビクビクしながら前を歩く生徒の後をついていくので精一杯だった。

 その後は東京スカイツリーに行き、舞浜の東京ベイなんとかというホテルへ向かった。
 ホテルの窓から見えるディズニーリゾートのアトラクションには、少しワクワクしたかも。
 東京スカイツリーは展望台が高すぎて現実感が無かった。展望台からは見渡す限り「東京」だった。本当にたくさんの人が住んでいることに驚いた。
 私が住んでいる青森市は、この1000分の1ぐらいだろうか?もっと少ないかもしれない。
 ここに住んでいる人たちがみな、毎日、喜怒哀楽の表情を浮かべ、それぞれの人生を歩んでいるのだと思うと、頭がくらくらした。
 私は狭い世界で縮こまっている、とっても小さな存在なんだなと実感した。

 夜は班の女子と一緒に4人部屋のベッドで寝ることになった。
 最初は「夜通し話そう」なんて言っていたみんなも、慣れない東京の空気に疲れたのか、すぐ寝てしまった。
 逆に私は明日の班行動のことを考えて、眠れなくなってしまった。
 ――何がこんなに私を昂ぶらせているのだろう?
 それは増野くんに見せてもらった動画が原因に他ならなかった。
 (そっか。私は期待しているんだ……)
 この昂りは、実際にあれを生で見られることへの期待に他ならなかった。
 (こんなに期待しているんだから、それに見合った内容だったらいいな……)
 そんな偉そうなことを考えているうちに、いつしか眠りについていた。

アイドルは本当は強いんです! ~ひだまりラリアット プロレスはじめました~【第1話】その11

 小林咲彩と中堅団体のベテランレスラーがリングの中央で対峙していた。
 観客のどよめきと怒号の中、二人の距離がジリジリと縮まっていく。
 団体のエースとして乱入者に負けるなんてことは許されない。
 しかもメインイベントのタイトルマッチを潰されたことで、ベテランレスラーの怒りは頂点に達している。
 そんな中でも、団体を代表するレスラーの矜持として“試合として”魅せようとするところが、若手レスラーたちが心酔するエースたる所以でもある。
 セオリー通りでいけば、両手をあげて近づいている二人は、リング中央でがっしりと手をつかみ合い。そこから力比べが始まるところだ。
 しかし、相手はプロレス素人の小林咲彩。何が起こるのか全く予想できない。
 まさに両者が中央で、手を組もうとしたその時!
「さやハンマー!」
 なんと、小林咲彩が相手の顔面めがけて頭突きを放った。
「お、おまえ、汚えぞ…」
 ベテランレスラーは片膝をつき、鼻を押さえている。
「汚くありませんよ。シャワー浴びて来ましたから」
 小林咲彩は片手で髪をふわりとなでた。
 リング上にシャンプーのいい香りが漂った。
「ねえ、ナルちゃん、この方、膝ついちゃったけど……」
 セコンドの南海ナルが小林咲彩に向かって怒鳴った。
「気にしないでボコボコにしちゃえ!勝てるよ!」
「そっか!勝ったら歌えるんだった!」
 小林咲彩は、ぎゅっと拳を握った。
「すみません。ボコボコにさせていただきます」
 片膝を付いているベテランレスラーに近づいた小林咲彩は、そのまま顔面に前蹴りを入れた。
「えぇっ!?拳握ってたのに!」
 容赦のない、えげつない蹴りをもろに顔面に受け、ベテランレスラーは髪を振り乱しながら吹っ飛んだ。
 仰向けに倒れているところに駆け寄った小林咲彩は、そのままベテランレスラーを何度も踏みつけた。
「さやスタンプ!」
 顔面を何度も何度も踏みつけている小林咲彩。
 セコンドの若手レスラーから悲鳴が聞こえてきた。
 小林咲彩はそれでも顔面を踏み続ける。
「ちょっと!さやべぇ!踏みすぎ!」
 たまらず南海ナルが叫んだ。
「だってプロレスでは顔面をパンチしたら反則って、ウィキペディアに書いてありました」
「だからといってやりすぎだよ!これじゃグロすぎてショーじゃないよ!」
 ハッという顔をして、小林咲彩は踏みつけをやめた。
「そうでした。プロレスはショーでした」
 お客さんに魅せる気持ちを忘れていた小林咲彩は、自分の頭をコツンと叩いて舌を出した。
「テヘッ」
「古いよ!」
 南海ナルは音速でつっこんだ。

「ではいったん仕切り直します」
 小林咲彩はベテランレスラーの両脇を抱え上げ、無理やり立たせた。
 相手はもはや意識朦朧として、足元もおぼつかない。
「こりゃ戦いじゃなくて、ジェノサイドだね」
 セコンドの南海ナルが慈悲の目で相手を見ていた。
 小林咲彩は、相手から少し距離を取ってお辞儀をした。
「えっと…それでは決めさせていただきます」
「……さやべぇ、テンポ悪いよ」
ウィキペディアにはテンポとか書かれて無かったので……」
「文字だけじゃなくて試合を見なきゃ勉強にならないでしょ」
「そうですね。次はそうします」
 ――試合中だというのにセコンドと長話をしている間に、相手の意識が回復していた。
「……次…なんて無い!」
 ベテランレスラーはフラフラになりながらも、小林咲彩の顔面めがけて渾身のパンチを繰り出してきた。
「よーし、魅せますよ~!」
 小林咲彩は半身でパンチを避けると、ベテランレスラーの背後に回り込んだ。
 そして、思いっきり力を込めて、バックドロップを繰り出した。
「きらきらアイドル☆ティアドロップ!」
 見た目はただのバックドロップだったが、そのパワーはすさまじく、叩きつけられたベテランレスラーはマットから大きく跳ね上がった。
 その圧巻の迫力に会場中がシーンと静まり返った。
「いやー、アイドルってこんなにパワーがあるんですね」
「違うって、さやべぇが馬鹿力なだけだって!」
 ベテランレスラーは完全に大の字に伸びている。
「さやべぇ、カウント!」
 慌てて覆いかぶさった小林咲彩。
 レフェリーは躊躇しつつも、3カウントを叩いた。

――つづく

ひだまりデイドリーム 6両目 アイスコーヒーとウーロン茶

 ノリノリささのり~!今日も総武線に乗って頑張るのり~!

 アイドルグループ「ひだまりラリアット」の“清楚キャラ”こと、船橋出身の佐々木のりこです。
 略して「ささのり」です。

 さっそくですがみなさんに質問です。
 会議などで集中している時、コップの中のウーロン茶を飲んだつもりが、アイスコーヒーが入っていて吹き出してしまった。
 ――そんな経験ありますか?
 おそらく無い人の方が多いかもしれません。でも私はよくやってしまうんです。
 見た目が似てるからこそ起こるトラブルなのですが、他の人に話してもなかなか共感してくれないんですよね。
 もし同じような経験がある方は、こちらまでご一報ください。(画面の下の方を指差して)
 ちなみに逆はそうでもないのですが「ウーロン茶だと思ってアイスコーヒー」の方が、より強烈に「おえっ」ってなっちゃいます。

 ということで恒例の、清楚キャラのリアクションを考えるお時間です。
 この「おえっ」っていうリアクション。ぜんぜん清楚じゃないですよね。
 本当は「ブフーッ!」って吹き出して、目の前にいる人にかけちゃいたいぐらいなのですが、それは清楚どころか人として間違っています。
 ハズキルーペのCMみたいに「キャッ!」って言うのが正解なんですかね?
 でも、あれって清楚なのでしょうか?

 まぁ考えてみれば、そもそも清楚キャラにコーヒーなんていう見当違いの飲み物を出すなって話ですよね。
 冷たい緑茶とかにしてくれないかな。ホント、コーヒーは無いわ~。
 ……おっといけません。少しだけ「ブラックささのり」が顔を出してしまいました。コーヒーだけにね。

秋葉原秋葉原~」
 アイスコーヒーとウーロン茶。
 なんかユニゾンの曲のタイトルみたいになってしまいましたね。
 それじゃ!ささのりまたのり~!!