ひだまりラリアットLOVE

ひだまりラリアットを応援し続けるブログです。

春色スタッカート ♭4

 新青森駅のコンコースには、すでに多くの生徒が集まっていた。
 私の中学校は2クラスしか無いので、全員でも60人ほどの少人数だ。新幹線ならほぼ1両で乗り切れてしまうらしい。
 ギリギリまで寝ていたかった私は、集合時間直前の電車に乗って新青森まで向かった。
 私は増野くんも同じ電車に乗っていたことに気付いていたけど、本を読むふりをして話かけないようにしていた。
 新青森に到着して、班ごとに並んでいる列に合流した時に、小さな声で「おはよう」とあいさつをした。
 増野くんは軽く頷いただけで、特に何も言わなかった。

 やがて出発時間となり、私たちを乗せた東北新幹線新青森から南へ向かって旅立った。
 新青森駅から最初の目的地の上野ま駅では、およそ3時間半ほど。中学生にとっては長い旅だ。
 私の隣の席には班長が座っていた。事前に班ごとに対面して座るルールが決められていたので、私の席の周りには班長を含めて3人の女子が座っていた。
 みんなのテンションが上がっていた最初の30分ぐらいは「楽しみだね~」といった話で盛り上がっていたのだけれど、すぐに話題も途切れ、車内はすっかり落ち着いてしまった。
 仲良し同士が集まったグループではなく、くじ引きで決まった班だとこうなってしまうらしい。
 私はバッグから本を取り出して読み始めた。みんなも雑談をしながらお菓子を食べたり、朝が早かったため寝たりしている。
 活字を追いかけながら、心地よい揺れを感じていると、だんだんと私も眠くなってきた。

 ――眩しい光が私を照らした。なぜか私は制服を着て、ステージの上に立っていた。
 客席には大勢のお客さんが座っている。その中に増野くんがいた。最前列で腕を組んで私を睨んでいる。
 スタンドマイクを前にしてオロオロする私に、増野くんは「本当に何もできないんだな」と言っているかのような、がっかりした表情を浮かべた――
 
 「まもなく大宮駅に到着する」という車内アナウンスで目が覚めた。
 私の周りに座っていた3人も、3時間以上の長旅で、いつの間にか眠ってしまったようだった。
 さっきの増野くんの表情を思い出して、夢だとわかりつつも寂しい気持ちになった。
 私はあのステージの上で何をすればよかったんだろう?
 その答えは、きっとお笑いライブの中にあるのかもしれない。そんな予感がした。

 上野駅に着いてから、バスに乗り国会議事堂に向かった。東京に来て最初に行く場所が国会議事堂というのがいかにも修学旅行っぽい。
 国会議事堂を見たところで「テレビのニュースに出ているところだな~」ぐらいの思いしか沸かなかった。
 それよりも、私は上野駅の人の多さの方が驚いた。
 上野駅の「公園口」という出口からバス乗り場へ向かったのだけれど、あんなにたくさんの人……それも外国人を見たのは初めてだった。
 どうしてみんなぶつからずに歩けるんだろう?私はビクビクしながら前を歩く生徒の後をついていくので精一杯だった。

 その後は東京スカイツリーに行き、舞浜の東京ベイなんとかというホテルへ向かった。
 ホテルの窓から見えるディズニーリゾートのアトラクションには、少しワクワクしたかも。
 東京スカイツリーは展望台が高すぎて現実感が無かった。展望台からは見渡す限り「東京」だった。本当にたくさんの人が住んでいることに驚いた。
 私が住んでいる青森市は、この1000分の1ぐらいだろうか?もっと少ないかもしれない。
 ここに住んでいる人たちがみな、毎日、喜怒哀楽の表情を浮かべ、それぞれの人生を歩んでいるのだと思うと、頭がくらくらした。
 私は狭い世界で縮こまっている、とっても小さな存在なんだなと実感した。

 夜は班の女子と一緒に4人部屋のベッドで寝ることになった。
 最初は「夜通し話そう」なんて言っていたみんなも、慣れない東京の空気に疲れたのか、すぐ寝てしまった。
 逆に私は明日の班行動のことを考えて、眠れなくなってしまった。
 ――何がこんなに私を昂ぶらせているのだろう?
 それは増野くんに見せてもらった動画が原因に他ならなかった。
 (そっか。私は期待しているんだ……)
 この昂りは、実際にあれを生で見られることへの期待に他ならなかった。
 (こんなに期待しているんだから、それに見合った内容だったらいいな……)
 そんな偉そうなことを考えているうちに、いつしか眠りについていた。