ひだまりラリアットLOVE

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アイドルは本当は強いんです! ~ひだまりラリアット プロレスはじめました~【第1話】その7

 午後8時45分。ついにメインイベントの時間となった。
 この試合は大会を主催している中堅団体のベテランエースと、人気急上昇中の若手のホープとの、団体最強のベルトを賭けた戦いということで、ファンの期待値は団体の歴史の中でも最高のものとなっていた。
 それを裏付けるかのように、会場を埋め尽くしたファンの熱気はすでに燃えたぎったような状態となっていた。
 若い男性のファンが8割を締めているからだろうか、地響きのようなどよめきが会場に漂っていた。
 そんな経緯など何も知らない小林咲彩は、今からこの熱狂の渦の中へ飛び込むのだ。

 大歓声と共に、メインイベントで対戦する2人が入場し、リング上で対峙した。
 コミッショナーからタイトルマッチの認定状が読み上げられ、チャンピオンからベルトが返上された。
 いよいよ試合が始まる。――その時、場内が暗転して、高い電子音から始まるイントロが流れてきた。
 ――小林咲彩のソロ曲「Tweet」のイントロだった。

 突然の展開に、戸惑いを隠しきれない会場。
 何も聞かされていないリング上の2人も、本当に驚き、混乱しているようだった。
 実はこの乱入、主催団体の上層部と、ひだまりラリアットのマネージャーの間だけでの取り決めだったのだ。

 イントロが終わると共に、スポットライトが一斉に花道を照らした。
 そこにいたのは、もちろん小林咲彩だった。
「あ、ああ……」
 顔を覆いたくなるのを必死にこらえながら、小林咲彩は顔を上げた。
 会場中の視線が、スポットライトを浴びた一人に集中した。
(信じられないぐらい大勢の人が私を見ている……ライブの時ですらこんなことは無かった……)
 こんな状況なのにも関わらず、緊張よりも勝る感情――“高揚感”が小林咲彩の胸にこみ上げてきた。

 会場は動揺から、怒号に切り替わっていた。
 当然のことだった。プロレスファンなら瞬時に理解するこの忌まわしき展開。
 団体の平和と調和の世界を壊す「乱入」という行為。
 会場のファンは、今まさにそれが行われていることを理解したのだった。

 罵声が飛び交う中、小林咲彩がリングに向かい一歩踏み出した瞬間、会場が揺れるほどの大ブーイングが巻き起こった。
 ファンのすべての憎悪が小林咲彩に向けられた、その時――
 ひときわ通る大きな声が会場に響き渡った。

――つづく