アイドルは本当は強いんです! ~ひだまりラリアット プロレスはじめました~【第1話】その4
駆け出しのアイドルグループ「ひだまりラリアット」が、マネージャーの指示で突然プロレス参戦することになった。
ブレイクする兆しすらなかったメンバーたちは、勝利したらステージ上で歌わせてもらえることを条件に、プロレス参戦を決めた。
興行がスタートするのは午後7時。現在午後4時。まだ3時間もある。
5人のメンバーのうち、まだ来ていない南海ナルは、姿を見せないどころか、メッセージアプリが既読にすらならない。
残りの4人はマネージャーから、控室でスタンバイをするように指示されたものの、何をしていいのかわからず、ただ呆然と座っていた。
「あの……私たちいきなりプロレス参戦なんてできるんですかね?」
佐々木のりこがもっともな疑問を口にした。
「私たち全員、試合に出るのかな?」
「でもこの大会のラインナップ?はもう発表されているんでしょ?」
「そうなると一気に5人も出ることになったら大会がぐちゃぐちゃになっちゃいますね」
「そうですね……どうするんでしょうね…」
歩千春、綾瀬陽菜、小林咲彩、佐々木のりこの4人は、それぞれ不安や疑問を口にした。
もちろん誰もその疑問に答えることができないため、控室は沈黙に包まれた。
しばらくすると、どこかへ行っていたマネージャーが戻ってきた。
姿勢を正してメンバーの前に立ち、淡々と告げた。
「主催者と話したところ、今回参戦できるのは1人だけになりました」
「えぇ!!」
全員が驚きの声をあげた。
「メインイベントのシングルマッチが始まったら、試合に乱入して、リングの上の2人をぶちのめしてください」
「えぇ!!」
「今そういう段取りで話をつけてきました」
「えっ?段取りってどういうことですか?台本があるってことですか?」
リーダーの歩千春が質問した。
マネージャーは表情ひとつ変えずに答えた。
「もちろんプロレスなんだからあるに決まっています」
「……」
「必ずしも相手がその段取りを守るかどうかはわかりませんが……」
「……」
メンバー全員が言葉を失ってしまった。
「メインイベントに乱入して…ぶちのめすって…そんなこと…」
清楚キャラの佐々木のりこが、青い顔をして下を向いてしまった。
重苦しい沈黙が控室を包み込む。
そこへさらに追い打ちをかけるようにマネージャーが告げた。
「そして、乱入するメンバーですが…」
全員に緊張が走った。
――マネージャーが指名したのは、最も戦いにふさわしくない性格のメンバーだった。
――つづく