ひだまりラリアットLOVE

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アイドルは本当は強いんです! ~ひだまりラリアット プロレスはじめました~【第1話】その5

「無茶ぶりにもほどがあるよね……」
「プロレスなんてできるわけないのにね」
「ですよね……私たち全員素人なのに……」
 控室にはマネージャーの姿はすでに無かった。
 指名されなかったメンバーたちが同情の目を向けた先には、指名されたメンバーがテーブルに突っ伏してシクシク泣いていた。
「む、無理です!わたしが勝てるわけなんて、ないです!絶対に勝てないです!」
 テーブルに伏せたまま、ブンブンと頭を振っている彼女が……
 ――メインイベントへの乱入を指示された小林咲彩だった。
「ねぇさやべぇ、『勝てる、勝てない』以前に、指名されたことを嘆きなよ」
 リーダーの歩千春が、小林咲彩のちょっとズレた嘆きにツッコんだ。
 小林咲彩は顔を上げ、袖で涙を拭いながら言った。
「私、一応プロなんで、指示されたことには従います」
「そうなんだ……さやべぇは変なところでプロ意識が高いよね……」
「……すみません」
「まぁそれがさやべぇの良いところなんだけどさ」
 歩千春は真っ赤な目をにした小林咲彩の頭に、ポンポンと優しく手を置いた。

 ――30分ほど前、マネージャーに乱入するよう指示された小林咲彩は、すぐにその理由を問いただした。
「な、なんで私なんですか!?」
「あなたがいちばん体が大きいから、体格で見劣りしないでしょう」
「そ、それだけですか?」
「ほぼそれだけの理由です」
「でも、どうしたらいいんですか?私、プロレスのこと何も知りませんよ」
「私もよく知らないので、何も答えることはできませんが……」
 マネージャーは突然ニコリと笑った。メンバーの前で初めて見せた笑顔だった。
「アイドルなんだから勝てるでしょ」
 その言葉を聞いた小林咲彩は、もう何も言い返すことができなかった。
 ――アイドルは何だってできる。
 ――アイドルは何にだってなれる。
 小林咲彩は28歳でアイドルになるまで、そんな理想のアイドル像を思い描きながら頑張ってきた。
 それゆえにマネージャーのシンプルな言葉は、強く心に刺さったのだった。
 その一方で、メインイベントに乱入して知らない人たちと戦うことに、緊張と不安が高まっていくのも感じていた。

――つづく