ひだまりラリアットLOVE

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アイドルは本当は強いんです! ~ひだまりラリアット プロレスはじめました~【第1話】その10

 後頭部にドロップキックを受けた小林咲彩は、リング上に倒れたままだった。
 ベテランレスラーは次のターゲットを南海ナルに決めたのか、距離を測りながらジリジリと近づいてくる。
 その間に、控室から飛び出してきた若手レスラーたちが、リングサイドを囲んでいた。
「何気にピンチだなぁ」
 南海ナルは少しだけ焦った表情を見せてつぶやいた。
 距離を詰めてきたベテランレスラーの手が、南海ナルに届きそうになった次の瞬間。
 ――南海ナルは思わぬ行動に出た。
 ベテランレスラーの顔面に向けて、思いっきりマイクを投げつけたのだった。
「ボゴッ!ピーギー!」
 マイクは大きな打撃音とハウリングの音を立てて床に転がった。
 と、同時に、ベテランレスラーが前のめりになった。
「な、何だ!?」
 そのまま「ドシン!」と大きな音を立て、うつ伏せに倒れてしまった。
 ――南海ナルがマイクを投げた瞬間、後ろから小林咲彩が激しいタックルをかましていたのだった。
 小林咲彩は南海ナルにハイタッチをした。
「ナルちゃん、ナイスタイミング!」
「へへ、息ピッタリだね」
 実は南海ナルは、小林咲彩が倒れたフリをしているのを見抜いていた。
 そして、南海ナルに完全に注意が向くまで、時間を稼いでいたのだった。
 小林咲彩がうつ伏せのベテランレスラーの後頭部に足を乗せた。
「失礼します」
「さ、さやべぇ、そんなの言わなくていいから!」
 南海ナルも便乗して頭に足を乗せた。そして両手を上げ、手招きをして観客を煽っている。
 会場は再び怒号に包まれた。
「ねぇナルちゃん、私、アイドルだからでしょうか。相手の攻撃がぜんぜん効かないんです」
「へぇ、すごいね。アイドルは打撃無効の能力まで持っているんだ……」
 大ブーイングの嵐の中、怒りに燃えた若手レスラーたちがリングになだれ込んできた。
「さやべぇ、混戦になるよ!」
 小林咲彩と南海ナルが身構えた。
 と、その時。
「お前らは下がっていろ!」
 ベテランレスラーが立ち上がってきた。
「こいつはお前らの手に負える相手じゃない」
 若手レスラーと小林咲彩の間に割って入ってきた。
「お前らは下で見ていろ!」
 ベテランレスラーの一喝で、若手レスラーたちはリング下に降りた。
「ナルちゃん、なんか私、この方から強キャラ認定されちゃってるみたいです」
「まぁこんだけの若手を相手にするの大変だから、トップを潰しちゃえば、みんな黙るんじゃない?」
「確かにそうですね」
 南海ナルもマイクを拾ってリング下に降りた。
 リング上は、ベテランレスラーと小林咲彩の2人だけになった。
 ベテランレスラーは低く構えて、小林咲彩に向けて両手を伸ばしてきた。
「……お前、何者だ?」
 小林咲彩も手を伸ばし、答えた。
「私は……アイドルです!」
 ――言い終えた瞬間、試合開始を告げるゴングが鳴り響いた。

――つづく